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怒りの自給自足

怒りの自給自足


 とあるショッピングセンターのトイレでの出来事です。
 個室に入っていると、隣の個室にも人が入ってきた物音を聞きました。音の様子や、独り言の声色から小さい男の子のようです。たぶん年齢は4・5歳といったところでしょうか。「一人で個室に入って用を足せるとはしっかりとした子だなぁ」と思っていたら、トイレのそとから女の人の声が響いてきました。

 「シューヤ、シューヤどこにいるの?」

 どうやらその男の子にお母さんが呼びかけているようです。何度呼んでも男の子は答えません。そりゃそうです、用を足している真っ最中なのですから。小さい子なりに気恥ずかしいのでしょう。その間にもお母さんの声は大きくなり、焦りモードにシフトチェンジしていきます。

 ついにお母さんは業を煮やしたのか、なんとトイレの中にまで入ってきて大声でシューヤ君に問いかけています。その勢いに負けたのかシューヤ君は自分の所在を答えました。それに対してお母さんは次のように、怒気を含んだ声で言ったのです。

 「大丈夫なの?ちゃんとできているの?」

 目が点になった後、すぐに思わず吹き出してしまいました。他の個室にいた人々もきっと同じ気持ちだったと思います。女の人が、男性用のトイレに大声をあげながら入ってきてまで確認したかった要件は「トイレがうまくできているかどうか」ということだったのですから。

 自分がうまくできていることを小声でシューヤ君が伝えている間も、お母さんの問いかけは続きます。
「何?もっと大きな声でいってよ。」「もう、はっきり言いなさいよ。」という具合に、問いかけの度に怒りモードは高まっていくのでした。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 僕はこの見ず知らずの親子の間にある妙な展開について思わず考えてしまいました。
 たぶんお母さんは、シューヤ君を一人でトイレに行かせるのが心配だったのでしょう。女性用のトイレに連れて行けばいいのでしょうが、何かの事情があり一人で男性用トイレに行かせなければならなかったのかもしれません。最初のスタンスは○だと思います。シューヤ君のため(あなたのため、For you)に、恥ずかしながら男性トイレに声をかけたのですから。

 でも、なかなか思ったような答えを返さないシューヤ君に対して、お母さんの心はざわつき、そしていらだちが高まっていきます。「私が恥ずかしい思いをしているのに、何よ!」「イライラするわね、早く答えなさいよ!」というようにしだいにスタンスが自分の方(For me)に向いていったのでしょう。するといらだちは増々高まっていきました。
 これを僕は「怒りの自給自足」と呼んでいます。
 
 For youがFor meに変わる瞬間が自給自足サイクルの始まりです。怒りの自給自足の悪い所は、いったんこのサイクルにはまってしまうと、雪だるま式に怒りは高まっていきます。そして最終的に大爆発してしまうというわけです。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 さて、この出来事のシューヤ君ですが、何事もなかったようにトイレから出ていきました。思わず最後まで見ず知らずのシューヤ君に「がんばれ」と心の中で声をかけてしまいました。
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プロフィール

山形昇平

Author:山形昇平
北海道教育大学附属札幌小学校にて11年間教員として勤務、その後北海道コンサドーレ札幌への出向を経て、現在は札幌市内教員です。学級便り・学校便りの発信、育児・子育てへの提案、運動・遊びのアイデア発信をしています。お子さんの成長の一助となれば幸いです。

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